この回は、連載第2回 からの、『心』『道草』等に関して、和田と小宮のやりとりの続き。和田の細かなするどい質問、小宮もある意味たじたじである。
(5)和田の主に脱字の直しに対しての小宮の回答部分。
脱字で初版にはちゃんと補ひ込まれてゐるものは初版どほりにした方がよろしからうと思ひます。但、脱字の場所は記して置いて下さい。
(6)和田の質問
「俗字は採用し、略字は正字をとる」といふ方針について、その 俗 略 の意義は絶対に辞書の示す通りに從ふべきですか。
例へば「点」の如きも、普通書く時には「點」と書くことなきも、夏目先生が「点」と書いて居られた所は矢張り その字型を採るべきですか。或は斯くの如きは「點」 に統一いたすべきや。左記の字につきその概念を御示し下さい。(左記の字は夫々俗字若しくは慣用字也)
(注: 以下和田の示す字と小宮の直し)
决(決) 台(臺) 迄(和田はキツの部分が占)(迄)
況(和田のは二水) 体(體) 身本(これが一字になったもの。小宮の注なし)月永(一字になったもの。小宮は、脈) 点(點)
小宮: 耳止(一字) 耳止(一字) 沖(二水) の3字に×印をいれ、否とし、
欠(和田は、缺 の慣とシテノ)には○を入れて採用とする。そして「すべて「臺」式に統一してよろしかろと思ひます。」
(7)和田
左記の字は多少の変化が存じますが、何れも原稿の書体、又は初版の示す通りの字型に從つて夫々使用いたすべきや。
整(又の部分が支) ・ 整 (共に正字) 壺 ・ 壷 (共に正字)
舘 ・ 舘 (共に俗字)(小宮の字で、館)
點 ・ 點(四点が下部の字体) (共に正字)
回 ・ 回(中が目) ・ 囘
迴 ・ 回(中が目)にしんにょう ・ 囘にしんにょう
既 ・ 既 (既 の 俗)
即 ・ 即 (即 の 俗)
(赤○印は從来統一使用シタル字型也)
7号の原はなるべくうたない様に致したいと存じますが然し如何なる程度に致すべきや。左記につき貴意を御伺ひいたしたし。
道草 四〇七=四、 島田が一人で訊ねて來た時(部)
〃 四八七=一、 眞際中(部) (注: 第一次では、最)
小宮: 「原」をなるべく置かない次第に私も賛成です。全集で此儘かえずに使つてどうですか。
(8)和田の質問
○ 今巻、現在までのところにて、注、 窮、 中、 龍 等の 「ゆ」 の入る字の音読の場合には、 原○ 初○ は夛く 「ゆ」 を略し、全○ は 「ゆ」 を入れてあります。而して、辞書は、
中□ 注□ 〔言海〕〔辞林〕〔大字典〕 ちゆう
龍□ 〔言 〕〔辞 〕〔大辞 〕 りゆう
窮□ 〔言 〕〔辞 〕〔大辞 〕 きゆう
(但し〔言〕 窮理(きうり))
友朋堂「実用文字便覧」によれば 中□ 注□ は「ちう」でもよしとあり、又 正確さは疑問なるも 新井無二郎編 「類似鑑」 は 「ちゆう」 「りゆう」 「きゆう」 「しゆう」 は 夫々 「ちう」 「りう」 「きう」 「しう」 と書くも妨げなし と記して居ります。
原○ に 「すう」 又は 「りう」 等と、或は 「ちゆう」 又は 「りゆう」 等とルビある塲合は問題なきも、原○ にルビなき字のルビは如何に定めませうか。
(A) 全○ によるべきや。
(B) 初○ によるべきや。
(C) 言海 或は 辞林 あるいは 大辞典 或は 字源 によるべきや。
次の1行は消されている。
(D)附近に原○ルビある場合
類字鑑の見解の如くんば、 「ちう」 「りう」 等も誤りではない様なるも、御考へは如何ですか。
原○に、「ちう」 「りう」等とルビある時、その附近に同字にてルビなき塲合をも御考慮の上御採決を得たし。
(以下は朱) 「夫々の 3字削除」右の塲合のみでなく、種々の疑問について御教示を仰いでゐるうちに、夫々の塲合の定義を御示し願へれば幸甚に存じます。
小宮: 是も今迄の全集のあなた方の校正どほりの使ひ方に統一して下さつて構はないと思ひます。但し原稿に〈よ〉つて出て來た塲合だけかきのこして置いて下さい。
注:以上までが、『心』に関しての和田と小宮の主なやりとりで、和田の「以上すみ」の記載がある。
次のやりとりは第3巻、『虞美人艸』に関してとなるので、連載第9回に掲載する。