配本開始まで 連載第9回
日記の第2冊は、昭和10年10月23日(水曜日)から。
10.10.23.
○ 昨日内容見本を送つた人達に挨拶状を出すのが
遅れて 今日になった。 十時二十分に出す。
○ 昨夜二時まで刷つて 月報八千をあげてくれたよし。
圖版の入れかへ 一、 誤植 二 を発見。一万をすり
あげてから訂正してもらふ事を依頼する。
○ 長田さん、堤さんが夕方夏目家を訪る。第一回分を5冊
持参。月報は間違のは入つてる方。
夏目さんの未亡人から おふささんの冩眞をかりて下さる。
(注: 俗名 ふさ 六十四才 と俗名 高田庄吉 六十三才 戒名は省略)
○ おふささんの冩眞 明治四十四年 二十二歳。
(注: この冩眞は、月報第二號 森田草平の「言行録」14頁にある。)
○ 長田さんと堤さん共に、松岡氏を訪て、森田氏に廻る。
内容見本を昨日送たのがついて、森田さんから電話が
かゝつたので。
内容見本表紙二の「全集完結の暁には別に一巻
となして」を赤インクの如く訂正する事によりて話が
すむ。〔赤インクでは、「同型の」とある〕
(注: ここは、月報表紙裏下部にあるかこみ記事:月報の一特色 連載 森田草平編 漱石先生言行録 の最後の文であるが、手許の内容見本では、「全集完結の暁には別に一巻となして岩波書店より刊行する。」のままである。)
○ 実物見本が出來た。大森製本から十五部、寺島
製本から十五部 持つて來る。
その中 夏目家へ五部、寺田さんへ一部 届ける。
小賣のウインドに一部、手にとつて見れるための見本
として一部、都合二部持つて行く。
○ 月報の訂正されたものを 五十部 精興社から届け
て來る。
内、西尾先生(西尾叟一 「名簿」に「新資料提供者」とある)に内容見本と一緒に 一〇部
小賣 ウインド用 五部
本と一緒に 二部
寺田先生に本と一緒に 一部
○ 長田さんが寺田先生に 第一回分を一冊と、内容見本二部
を届けて下さる。月報は正しい方。
○ 製本見本(装幀)を一揃い 上村さんがお持ちになる。
○ 豫約申込者 西尾密 長田幹雄 西島九州男
藤原千尋 森静夫 長田小枝 南イマ
○ 増田進氏 來店 先達おあづかりした印刷青嶂
紅花圖を持ちかへらる。
「偽物ではありませんが 印刷です」と申し上げたよし。
(注: 10.9.30 ○ 増田進氏 漱石筆と称する 青嶂紅花の圖絹本未
表装を持参さる。長田さん預かる。)
10.10.24.
○ 昨日 編輯部用として届いたのに、月報のいい方を入れかへ
て、各々人に挨拶に廻る。
○ 編輯部用として 大森から又三十部とる。
○ 月報のいい方を五十部もらふ。
○ 木村秀雄氏出 松岡氏 宛の葉書來る。
書簡 及び 薤露行 の零墨をおもちのよし。
○ 鶴本氏(注:丑之介氏)を訪る。 日中不在。
○ 古川 久氏に 検索用 漱石全集を届ける。
虞美人艸 坑夫 心 道草 を省いた全部。
○ 松井さんが校正の手伝ひに今日午後から來て下さる。
10.10.25.
○ 配本開始
○ 鶴本丑之介氏を訪る。
一、 俳句研究に出てゐる句は誤植が多い。どの程度迄
全集と新聞がちがつてゐるのか一寸手許に資料が
ないからわからない。
一、 新聞を冩眞にとるにしてもこれは一部分で まだ沢山
あるかもしれないし、それを全部撮影する事は
大変だからどうしよう。
一、 「承露盤」の方はうつして來て頂く事をたのむ。
それは小宮先生からもいつて來てゐる、と申される。
一、 松山から熊本に転任する時の漱石の挨拶を
当時の生徒(現に当時の女学校の歴史の教師)が筆記
したものがある。速記でないのでどの程度に正確で
あるかわからないが 是はどうしよう。
是非うつしをとつて來て頂きたい。と依頼する。
一、 俳句ばかりでなく 書簡なども出て來るかもしれないから
そのつもりで探して頂きたい。とたのむ。
一、 文藝春秋の十二月號に 川島芝崎の 漱石の思ひで
を載せる。(これは川島大将の話を聞いて 鶴本氏が
纏めるもの)と。
○ 坂水四郎氏より来信。書簡をお持ちのよし。(注: 「名簿」に、新資料所有者、貸与者とある)
○ 朝日計畫課 床崎氏より電話。
博士問題の當時の談話筆記がある。
明朝十時半すぎに社に持つて來るから取りに來てくれと。
(注: 「名簿」によると、床崎俊夫氏、東京朝日新聞計畫部。博士問題(談話)/漱石 入手原稿貸与者。)
○ 一つの控 思想 漱石號 編輯日記。
◇ 「漱石研究參考文献」は鎌倉幸光氏が甞て「浪
漫古典」夏目漱石研究特輯(昭和九年九月號)に載せられ
た「漱石文献目録稿」に拠りながら 漱石全集刊行會編
集部で適宜編纂したもので、漱石研究者にとつて
裨益するところ多大であると信じる。
(注: 現存するこの「漱石文献目録稿」、但し編者、鎌倉幸光氏の前書きでは、日付が同年五月十三日となっている、には、目次その他へおびただしい書き込みやチェックがある。)
○ 長田さん、森さん、両人で鎌倉氏を訪る。
思想 漱石研究文献目録の資料を借りるため。
10.10.26.
○ 五千部増刷の準備中であつたのが、今暁寺島製本所
の類焼によつて、今朝 大部分一千余部を焼き、
爲に増刷と確定す。
奥付の印刷 發行年月日を、初版の場合と少し
く変更す。
控
初版 昭和十年十月十五日 印刷
昭和十年十月二十日 發行
再版 昭和十年十月十五日 印刷
昭和十年十月二十五日 發行
三版 昭和十年十月二十日 印刷
昭和十年十月二十五日 發行
○ 松岡氏来店。鶴本氏の足代の話。月報第一號が復古趣
味との批難があつた。
10.10.27.
○ 長田さん、森さん、文献目録の爲出勤。(注: ちなみに、27日は日曜日)
10.10.28.
○ 松岡氏から 研究文献資料を借りるために 飯山さんがお宅に伺ふ。
○ 文献目録で終日。
10.10.29.
○ 小宮先生から 来信
○ 鶴本丑之介氏から 来信