配本開始まで 連載第6回
10.9.27.
○ 第二回配本の「こゝろ」 原稿全部 百六十三枚
を精興社渡し。
「道草」は原本 切抜に当つてないらしい爲、
一度切抜と校合して、小宮先生と相談してから
返す事にし、一時とめておく。
○ 第二回分の 心、道草 索引用を古川氏に
あげる。(以下、小文字)長田さんの留守中 左の要件を書いた名刺を置いていかれた。
「漱石全集一冊慥にお預りしました カードは小宮先生にお送りした分が戻り次第
とり始めます故御用意置き下さるやうその節はまた電話をかけます」
○ 松根豊次郎氏を長谷川さん訪問。内容見本
の推薦文依頼の爲。その節に俳句の季題別
促進方 おねがひと共に、 追加分 記入材料をもつてゆく。
所が曰く。あの席以來 小宮さんに逢つてもゐないし、手
紙も貰つてゐない。提案した丈で、凡て小宮さんがやるやう
になつてゐる。とにかく 材料は預つておくが 何とか早く決める
必要があろう 云々と趣旨があつた。
(右の事はあとで小宮さんへ手紙書いて 「…といふわけで早速伺
はうと思つたが、それならそれで又他の対策もあらうかと存じ、
とにかく先生から手紙上げて下さる事をまつた上で」 と申送つた。)
○ 長田さん 鈴木三重吉氏を訪問。
表紙は細字の方で、第拾巻の字の上についたものを選定された。
〔岩波文庫の件 依頼快諾。長谷川君の方に手紙かく〕
○ 長田さん、松岡氏を田園調布に訪ねる。
保恵會雑誌を借りて來る。鎌倉氏の例の豪華版
をすすめる手紙を渡される。
○ 夜半 一時迄かかつて小宮さんへ手紙書く。
10.9.28.
○ 長田さん 寺田さんを訪ねる。森田草平氏も同席で、
鈴木三重吉氏の選ばれた表紙(題字 巻数の字の上にある方)を決定される。
○ 昨夜書いた小宮さんへの手紙に対する校正整理午前中。
原○ 十一ケ所
堤さんあてに頂いたお手紙の趣はそれぞれ善処しますといふ事。
博覧會 イルミネーシヨンの事。
小林さん プルタークの事。
松根さんの報告。
鈴木さん 装幀 決定の事。
虞美人草校正の事。
(これは別に書きぬきのままかへつて來て西原さんの手許にあり――追加――)
◎ 寺田さんへゆく。森田さんがゐて例の話。今度は小宮さん
の最近の手紙について。結局寺田さんの採決は、
△ 森田さんが餘り同列同列と意味の曖昧なことをいく度もしつこく
言ふからそれで小宮さんを怒らしたのだ。
△ 小宮さんも、此の前の手紙は至極譯の分かつたのだつたが今後の
は感情的すぎる。
△ 森田さんも同列同列と言はず、小宮さんも感情を出さな
ければ、黙つてゐても自然に、よくなつたのだと思ふ。即ち、
△ 刊行会は二十年の記念に 解説と索引の二大特色を含ん
だ全集を刊行する。同時に小宮さんにかねてよりの「傳」を完成して
頂き、全集について〔会員には〕豫約外であるが、全集と同じやうに揃へ得
る特典を提供する。
△ 又別に全集には毎號月報がつく、その月報に森田さんが、
逸話奇行(後から指示の追憶)を連載する。それも
その時決まつた事であり、充分月報の一つの特色となり得る。
それを刊行後にまとめて本にする事は阿倍さんも
小宮さんもすゝめ、岩波で引受けて出す。会員には
特典を与える、それでいゝと思ふ。
△ そこは何等の同列問題もなければ、差別のつけ
ようもない。價値の問題は全然問題外だ。殊に
森田さんは、小宮さんのいふ通り「傳」に附録したもの、
一資料でいゝと言つてゐる。ただ月報を借りて自分
が担当して連載する。纏まったあとで、本にして出
版する。それ丈を言つて(コーコクシテ)呉れればよいとの事なの
である。
10.9.30.
○ 新資料発見(注: 朱で囲み)
無題原稿 法學協会雑誌第三十巻第八号(明治四十五年八月
一日発行)所載写し。岩波書店二〇〇詰原稿用紙二枚
漱石全集刊行会封筒入を堤さんが三階より発見。
封筒は、電話 四谷二九七三番時代(大正十四年)のもの。
表に、「夏目先生の文 法學協會雑誌掲載のものゝ引写し」
(墨書)「この次の全集に入れること」(赤インク書)の記あり。 □決定版に編入スミ□
暫時金庫に藏る。
(薄い鉛筆書き: 布川さん仙台小宮先生に聞いて置く)
○ 増田進氏 漱石筆と称する 青嶂紅花の圖絹本未
表装を持参さる。長田さん預かる。
欄外上に記: 小宮先生、仙台より来信 和辻先生より広告文來る。
(10)10.1
○ 仙台の布川さから左記の電報來る。小宮先生の解説が了なり。
カイセツコンヤデキル」 モツテユク」 カク
○ 岡倉由三郎氏より推薦文 依頼者の島崎さん宛に
來る。島崎さんから着報を出して頂く。
10.10.2.
○ 小宮先生の解説を布川さんが持つて來て下さる。
枚数
すぐ精興社に渡し、明朝校正を出してもらう
約束。初校が倚麗ならそれをもつて明晩長田
さんが仙台に行く予定。
○ 一、 森田氏 漱石先生言行録の原稿を持参さる。
枚数 四〇〇字原稿用紙十七枚。予定を七枚
超過。初めの約束は毎回十枚、三十円(一枚三円)といふ
のであつたがとにかく七枚の超過でも加算して
十七枚分金五拾壱円也を原稿料として差し上げる。
然し、森田氏から、「月額参拾円と決まつてゐるんぢや
なかつかた」 と言ひ出されたので、今回はそのまゝに
して、第二回から毎月参拾円宛にして
貰ふ事を確立。
一、 第二回の足代金参拾円也を森田氏に渡す。これは
夏目家の立替。
○ 古川氏来訪。索引のカードにかゝるから、カード用
紙をとの事。藤森さんにカードを千枚程頼む。
夕刻、カード三千二百枚を藤森さんから受取る。
○ 松根豊次郎氏より全集推薦文來る。礼状すみ。
原稿は宮沢さんに渡しすみ。
○ 一つの控え。
普及版卸に品切分は
二回 ―― 四巻
三回 ―― 十三巻
六回 ―― 二巻
十九回―― 十巻
大型(注: 大正13年版のこと)卸に品切分は
一回より四回迄
十巻、十一巻、七巻、一巻
10.10.3.
○ 解説くめて來た。
三十一頁 白。
○ 寺田さんへ伺ふ。
◎ 小宮さんから堤さんへの手紙を見て頂く。
「主觀の問題で、客觀的には即ち読者の側からは
少しも区別たてなくてよい問題と思ふ。
「区別したとかしないとか、同列とか、でないとか、どういふ氣
持で取扱つとかいふ必要は毫もないのであつて、
たゞそれぞれ別々に發表したらいゝのではないか。
と自分は思ふ。
◎ 森田さんの言行録について
「憎んでゐた人とは自分はいはない。味方でなかつた
人と直して貰ひたい。
◎ 圖版の事
「下選みした。今夜もつて行つてくれ。
◎ 解説の位置。
三方法の中頃。それはあとの方がよい。全集は全集
としておいてその全集に揃へて出すものとして。中におりこ
まぬがよい。又揃においてそれを讀んでから本文をよむんでなく先入勸念なく本文を先ずよますべきだ。
○ 阿倍さんへ 解説の着報 竝に礼状出す。
○ 引出函 二ケ注文した。
◎ スティールの戸棚 三尺の四尺 四十五円
木の戸棚 々 二十五円 の由。
○ 松岡氏來。
明日梗概丈でも書く。書けたら宮沢君へ電話。
松岡氏から頼まれた金一封を、小林さんが夏目家に届け
る。同家から拝借中の艸合・虞美人艸の書入れを備付本に記入して一緒
に返却する。 ※
○ 和辻先生 解説と索引の事を
おねがひする。お引き受。
森田さんの前置について ?(ギモン)あり。仙台を
よくまとめる事、との事。
解説 寺田さんと同意見。
○ 寺田さん すいせん文 小林君よりおねがひに
御伺いする。
※ 松岡氏より樋口正美氏の名刺を頂く。
同氏は 樋口諸峡氏の息子で、諸峡氏宛書簡数通
所有のよし。十日以内に電話をかけてこちらから伺ふ。
(注: 以下の個人情報、自宅住所、勤務先、電話番号、等は省略)
「ノート下部へ記入: 11..9.22 スミ 但一通。」
俳句集 備付を松岡氏に貸す。
○ 古川氏来店 カード八百枚持参さる。
○ 本田顯彰氏来店。市川三喜先生の全集推薦文
の原形執筆を依頼、承諾さる。
○ 長田さん 午後十時二十分の汽車で 仙台へ向け出發。
○ 先達 小林さんから頼んで頂いた全集扉の字の
様子をうかゞひに 南、狩野先生を訪問。
まだ出來てゐません。一両日待つて下さい。といふ
御返事。返事小林さんに報告すみ。
○ 文藝放談 十月號出来。 飯山さんが持つて來る。
漱石先生の 「生徒に與ふる書」掲載。 発表者 松本三郎氏
未發表ならず、愚見 教則なり。
○ 反響 創刊号 掲載の草平氏記。漱石山
房座談 一。 のつゞき 二以降はいかゞ
なつてゐるのでせふか、と 森田草平氏に葉書
にてきく。
○ 今夜の木曜会に 見返し を議題に出して
頂くやう 藤原さんに頼んだ。 表紙見本と
見返をつけた・の表紙見本をお渡しする。
○ 鎌倉さんからあまり電話がかかつて來ないので
三時頃丸見ヤへ電話をかける。もつて來てゐるとの事
小林さんに行つてもらつて別記新聞を拝借し來る。